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宇多喜代子×小澤實 ダブル刊行記念
「平成の名句を語る」

大阪梅田の蔦屋書店では、いつも関西から詩歌の世界を盛り上げてくださる書店員のNさんが、魅力的なイベントを企画されています。

4月13日(土)は、宇多喜代子さんと小澤實さんによる「平成の名句を語る」トークでした。

名句とは、10人が選べば10人異なります。ゆえに既存の評価にとらわれず名句を選び、鑑賞するというのはなかなか難しいもの。その点で約10年にわたる連載から近現代の名句300句を取り上げ鑑賞した小澤さんの『名句の所以』は貴重な一冊です。

話の中で取り上げられた俳句をいくつかご紹介します。

冬木の枝しだいに細し終に無し  正木浩一

起立礼着席青葉風過ぎた  神野紗希

チューリップ花びら外れかけてをり  波多野爽波

茄子焼いて冷してたましいの話  池田澄子

みづうみのみなとのなつのみじかけれ  田中裕明

台風をみんなで待つている感じ  中田美子

投げ出して足遠くある暮春かな  村上鞆彦

春の風顔いつぱいに吹く日かな  成田千空

ただひとりにも波はくる花ゑんど  友岡子郷

見る人もなき夜の森のさくらかな  駒木根淳子

冬の月明たかが人間ではないか  栗林千津

あつが死んだ日囀りの口が見え  金田咲子

上のとんぼ下のとんぼと入れかはる  上田信治

西国に水の傾く稲の花  山口昭男

「作者の顔が見えてくるのが名句」「円形の半分は作者でもう半分は読者」など、宇多さん・小澤さんの鑑賞を聞きながら、名句の多様性を存分に味わうことのできた1時間半でした。

今回のトークイベントの前半は宇多喜代子さんの最新句集『森へ』の発刊記念でもありました。小澤さんが「この句集では面白さが濃くなりましたね」と言うと、宇多さんは「年を取ったせいですね。当たり前のことを当たり前に詠むようになりました」とコメント。この句集には、

二人入り二人出てくる芒原

ふくろうのふの字の軽さああ眠い

といった軽妙な句もあれば、

一瞬が一瞬を追う雪解川
球形の大地に凝りて露の玉
蛇の手とおぼしきところよく動く

 

といった森羅万象の躍動を詠んだ句があり、そして「戦争」という重いテーマが共存しています。

夏の真夜火の中にわが家のかたち
炎天下死んだ少女の手に水筒
終生の目の底を這う炎かな
八月に焦げるこの子らがこの子らが

宇多さんの家が戦火に焼かれたのは9歳の時。
「お母さんがついてるから大丈夫」。
そう言って、当時32歳の母親が、焼夷弾に怯えるわが子を励まし、命に代えても守ろうとした心中を思うと胸が締めつけられます。人類の長い歴史の中で、戦争の時代を生きなければならなかった人々。その苦難は計り知れません。
平成の終わりに大事なことを教えられる一冊です。

毎日新聞出版(2018/9/15)

青磁社(2018/12/7)