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永野シン句集『桜蘂』

(高野ムツオ氏序文より抜粋)

 

残雪の蔵王に映える東北有数の桜の名所、白石川堤一目千本桜は、シンさんの家のすぐ傍で、ここ(宮城県大河原町)を定住地と定め、夫とともに半世紀近くを暮らして来た。その間、幸福な日々とともに、シンさんなりの紆余曲折、変転があったことだろう。肉親はじめ縁深い多くの人との別れもあった。七年前には最愛の人も失った。

  

  落葉松の芽吹き金色父の死後

  風鐸を鳴らすは夫か冬木の芽

 

(中略)

第一句集『断面』の序で「平凡実直な主婦である生活感と、少女のような初々しい弾み心とが、どちらの良さも損なわれずに」句に溶け合っていると書いたが、それは、『桜蘂』にも一貫している。

 

  一気とは恐ろしきこと散る銀杏

  だんご虫よわれも必死ぞ草を引く

  春疾風この地捨てざる貌ばかり

 

永野シン俳句の真骨頂はこれらの句にあろう。長寿社会と言われる今日でも、長生きはやはり得がたい天恵に変わりない。しかし、同時にそれは、来るべき日に向かって老いと孤独と、そして、自分自身と闘いながら、もがき生きることに他ならない。これらの句には、その重い命題から目を逸らすことなく一途に懸命に生きようとする姿が刻まれている。しかも、亡き人と心を通わせながら。本集『桜蘂』は、そうしたひたむきな女性の現在時点の紙の道標である。

発行:2019年12月12日
序文:高野ムツオ

装丁:奥村靫正/TSTJ

四六判ソフトカバー 192頁
2200円+税

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ひたむきに生きる女性の

​現時点での道標

◆高野ムツオ選15句

月光のほかお断りわが栖

壺焼のぷくぷくあれが初デート

落葉松の芽吹き金色父の死後

一気とは恐ろしきこと散る銀杏

瓦礫よりすみれたんぽぽ苜蓿

ブータンへ行こう木の葉の舟に乗り

だんご虫よわれも必死ぞ草を引く

手を延べてくれそうな樫初日影

秋茄子煮ても焼いても独りなり

春疾風この地捨てざる貌ばかり

桜蘂踏みて越え来し母の齢

秋の蛇飛行機雲のように消ゆ

この世しか知らずに生きて秋夕焼

鏡には映らぬ病冬座敷

笑わざる如く笑って唐辛子

<著者略歴>

永野シン(ながの しん)
昭和14年 栃木県黒羽生まれ
平成3年 「小熊座」(佐藤鬼房主宰)入会
平成14年 佐藤鬼房逝去により高野ムツオに師事
平成15年 「小熊座」同人
平成23年 宮城県俳句賞準賞受賞、宮城県俳句協会会員、

     現代俳句協会会員