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杉山加織句集『ゼロ・ポイント』

(木暮陶句郎氏序文より抜粋)

 

 驚くことに、加織さんは最初から季題をしっかりと見つめ、そこに自らの心情を託した俳句を次々と生み出していった。「ひろそ火」で企画した吟行旅行にも臆することなく参加し、十七音の世界に遊びはじめたのだ。彼女の俳句は新鮮かつ個性的、一句一句に宇宙まで広がるような不思議な魅力を秘めている。句歴八年目にしてすでに独自の句境に達していると言ってよい。もちろん、これからさらなる高みをめざして一層の精進を期待するものである。

 

  雛の間の耳を貫きゐる静寂

  青葦の流線型に風を切る

  母の日や母の役目はまだ知らず

 

 などの俳句に見られるように、加織さんは季題を自分に引き寄せつつ、独特の切り口で作品の世界を広げてゆく。

 

  花人にひとりひとりの空のあり

  君の居ぬ時ぽつかりと蝶の昼

  この恋は銀河に続く物語

  寒紅や心の底を見せぬ色

 

 これらの作品は季題を通して余韻深く人間の内面的な部分を詠み上げることに成功している。それは決して技巧ではなく感覚によって得た真実。見えない「想い」というものを素直に季題に語らせることが出来ているのだ。

​(中略)

加織さんは俳誌「ひろそ火」の編集はもちろん、アナウンサーとしての技術を生かし、句会では披講師として、また周年事業の司会を完璧にこなし、夢二忌俳句大会の運営、司会進行など大車輪の活躍で「ひろそ火」を支えてくれている。その忙しさのさなか、夢二の愛した榛名湖畔の花野を訪れて詠んだ加織さんの句は、毎年とても素敵である。

 

  伊香保路の露に濡れたる一忌日

  夢といふ字を咲き継ぎて大花野

  欠けたるは愛すべきもの松虫草

  花野忌の水に脹らむ絵筆かな

  引き返すこと赦されし花野径

 

 最後の作品は、令和元年度の第二十六回夢二忌俳句大会の大会大賞となった。この度の第一句集『ゼロ・ポイント』を新たなスタート地点として、これからも加織俳句の新境地を切り開いてほしい。

発行:2020年2月4日
序文:木暮陶句郎
装丁:奥村靫正/TSTJ
四六判ソフトカバー 176頁
2000円+税

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五感を研ぎ澄ませて季題と向き合い、「想い」を季語に語らせた276句​

◆木暮陶句郎選10句

指切りは遠い昔や春の星
初蝶や今日のラッキーカラー舞ふ
雛の間の耳を貫きゐる静寂
亀鳴けりタクラマカンの砂漠にも
母の日や母の役目はまだ知らず
酒蔵の長き廊下を抜けて夏
スタンドのジョッキーコール青嵐
イエス・ノー答へぬままに髪洗ふ
魚の目に映る空色水の秋
引き返すこと赦されし花野径

<著者略歴>

杉山加織(すぎやま かおり)

昭和53年、静岡県生まれ。中央大学文学部卒
平成23年 「ひろそ火」入会
平成24年 ひろそ火新人賞受賞
平成28年 北斗賞佳作
平成30年 ひろそ火賞正賞受賞
現在 「ひろそ火」編集長、夢二忌俳句大会実行委員、群馬県俳句作家協会会員、フリーアナウンサー